新島のコーガ石
新島は、東京都にある伊豆諸島に属する島です。
この島で産出される固有の石材であるコーガ石は、世界でも新島以外では、イタリアのエオリア諸島リパリ島にのみ産出すると言われています。しかし、石の違いや使われ方などを比べると、コーガ石は新島固有とも言えます。このことから非常に貴重な石材であることがお判りになると思います。
石材の特徴は、この後ご紹介いたしますが、とにかく軽く、水に浮き、水を通しません。 加工は特殊処理した鋸で切り出すことができ、簡易なヤスリで自由な形に削り出すことができます。 この特性を生かして、新島では古くからさまざまな物に利用し、ダイドコロ回りから建物まで、さまざまな構築物が造られてきました。
コーガ石は島の人々の生活とともに、新島固有の歴史遺産を創り上げてきました。 もちろんその代表例は、日本国内でも稀な石造建築文化です。
いままでの活動
私たち新島抗火石建造物調査会は、コーガ石を利用した歴史的な建造物の調査を通じて、広くコーガ石とそこから生まれた新島の生活文化を見直し、コーガ石の歴史的建造物の保存に取り組むことを目的とした自主研究グループです。 1999(平成11)年から調査活動を進め、これまでコーガ石の建物を所有される方、コーガ石に関連する仕事に携わる方など、多くの方々のご協力をいただき、2021(令和3)年5月までに、年2~3回の調査を行い記録保存してきました。
1999(平成11)年秋から2000(平成12)年にかけて実施した調査では、本村地区に残る明治から昭和初期(昭和30年頃まで)の間に建築されたと思われるコーガ石の構築物を対象に、悉皆調査を行いました。 その結果、2000(平成12)年の段階で、約300件の建築物を確認することができました。 さらにその後の調査では、コーガ石の建築として特徴的な建物についての個別調査を実施し、あわせて聞き取り調査などにも取り組んでまいりました。
しかし、コーガ石を使ったこうした歴史的な文化遺産は、他の地域には見られない独特なものであるにもかかわらず、新島という限られた地域でしか知られていません。 また島内ではあまりにも身近なもので、生活の中に今も深く根づいていることから、これまでほとんど評価されることがありませんでした。 そのため、生活スタイルの変化や、地震の影響などにより、古いコーガ石の建物は急速に失われています。 またコーガ石の特徴はその“軽さ”ですが、近年では、比重の軽い良質な石材が採れなくなっています。 こうしたことから、私たちは歴史的な建造物を保存していくには、少しでも早くこれらの文化的な価値を認識し、保存に向けた取り組みを進めていく必要があると考えております。 私たちはこれまでの調査を通じて、あらためてコーガ石の建物、そしてそれらに代表される新島の生活文化について、一層の魅力を感じるとともに、これらの歴史的文化遺産の重要性を考えされられてきました。
平成14(2002)年には、コーガ石建造物の魅力をあらためて見つめ、広く来島者の方々にも知って頂こうという趣旨で、写真展を開催することとしました。 4年間にわたる調査成果をもとに、現存するコーガ石の建物の写真・図面に加え、建築写真家清水襄氏の撮影による、魅力あふれる写真を展示しました。 その後も継続的に個別の記録調査を進めてまいりました。
平成16(2004)年2月にコーガ石建物の一棟が、国の登録有形文化財(建造物)となりました。 歴史的建造物としての価値が認められ、大きな一歩となりました。 平成30(2018)年11月3日には新島村博物館主催の「文化講演会 講演会・文化財ウオーク」が開催されました。 「コーガ石建造物を考える」というテーマで、調査を重ねてきたコーガ石建築の紹介と価値、石造建築物の特徴などの内容を、村民の皆様にお話しました。 翌日は見学会が開催され、代表的建物の見学を行いました。
次の世代へ……
現在、なるべく多くの建物を保存し、次世代に継承するために活動を進めています。
令和3(2021)年度には、新たに3軒の登録文化財候補を推薦するために、新島村に各建物の調査報告書を提出しました。 この3軒は、私たちが調査したほんの一部ですが、このほかにも多くの貴重な建物が存在しています。 あらためてそれらの建物を、今後どのように保存・活用し、さらにはコーガ石建物を生かした町並みの形成について、島民の方々とともに進めていきたいと考えています。
末筆ながら、私どもの調査を快く受け入れてくださいました島民の皆様に御礼を申し上げます。 また、本ホームページをご覧いただいた皆様、是非一度新島においでください。 コーガ石に囲まれた道を歩きながら、ふと視線を上げると、真っ青な海があります。 一瞬、日本とは思えない町並みや建物、背景を彩る素晴らしい自然を堪能していただけることと思います。 そして、是非この遺産を次の世代に伝えるために、ご協力をいただければ幸いです。
新島抗火石建造物調査会一同