村内を歩いていると、数多のコーガ石の建物に出会える。上を見れば、三角形、片流れ、円筒状、平たい形など、さまざまな屋根の形がある。三角形の屋根を見れば、その頂上に鬼瓦を据えている建物が多い。
鬼瓦は当然瓦でできている。その絵柄は邪気を祓うような怖い鬼面から、火伏[1]を意味する雨雲の形や龍、長寿吉兆の象徴である鶴・亀など、さまざまに作られる。この自由な造形は粘土を素材とした焼き物だから可能なものと言える。成形した粘土を竈に入れ、焼き上げ、仕上げは松葉などを使って燻し仕上げにする。
かつて鬼瓦を成形する仕事は「鬼師」と呼ばれる専門の職人たちが腕を振るっていた。しかし今では形式化され、同じパターンが多いため、多くは竈を持つ瓦屋が作るようになった。
さて「コーガ石の建物ではどうか?」と言うと、これがすべてコーガ石でできている。特に屋根もコーガ石で葺かれていると、石の棟の両端にはさまざまな形の鬼瓦が据え付けられる。
厳密に言えば瓦ではなくコーガ石だから鬼瓦と呼ぶには正しくない? 強いて言えば鬼石といったところだろうが……。まぁ、いいか。
右下写真の鬼瓦は小祠の屋根に載るコーガ石製鬼瓦。この鬼瓦は工事を担当した石工が彫り込んで作りだしたものである。
コーガ石の鬼瓦は粘土製と違い、ガリと呼ばれる手製のヤスリで母岩[2]から削り出す。どの鬼瓦も同じであるが削り出す形や彫りによってさまざまな大きさ・形状のガリが必要になるという。
ガリはすべて手作り。もちろん鬼のデザインも石工任せ。中には器用な所有者が自ら彫り出す場合もあるとのこと。加工性の良いコーガ石ならではと言えようか。
それらの多くは、粘土製の鬼瓦と同様に火伏を意味する雲形などが用いられ、中には立派な鰭[3]が付いたものもある。また、粘土瓦の鬼板[4]とその裏に漆喰で付けた影盛[5]のように、厚みのある鬼瓦に似せて削り出したものもある。
シンプルにデザインされた形や、伝統的な洲浜[6]形、洋風瓦に使われる立物[7]といった形状のものもある。
鬼瓦が載っている鼻先には、拝巴瓦[8]を載せている建物も見られる。円形の面には、家印や家紋、名などが彫り込まれている。その多くは、粘土製の鬼瓦を模した形状が多い。苔むしてはいるが、手の込んだ彫りこみは見事である。
が……、道を歩く人の目には、そこまで見ることができない。
見えそう、でも見えない石工の技術である。